ヨムタカの読書録

出会った本の感想録と歓びの共有を目指すブログ

<フランス王朝史>~わかりやすさが「ちょうどよい」フランス形成史

きっとだれもが経験していることだと思うが、高校生の時学ぶ世界史では1つの授業の中であらゆる国の歴史を浅く広くさらっていく為、「あれこの時日本ってなにやってたんだっけ?」「この国普通に広い領土を思ってるけど、君、いつからいたの?」的な疑問を抱く機会がしばしばある。(しかも、正直テストだけを乗り切るためには、あまり気にしなくていいことだったりするので、自ら調べない限り疑問も解消されない。)

そんな種類の疑問の西洋史版として僕が良く思ってたのは「西洋史ってローマ帝国からルネサンスくらいまでぬけてない?」ということ。個別の国で行けば「フランスは絶対王政とか言って、王様の絵が乗ってるとこまで名前すら聞かない」「イギリスは産業革命まで名前聞かない気がする」という感じ。

そこで手始めにフランスから行ってみようという事で、読み始めたのが、まさにフランスという国が形成される過程が「ちょうどよい 」詳しさで書かれているフランス王朝史三部作『カペー朝』『ヴァロア朝』『ブルボン朝』(佐藤賢一 著/講談社現代新書

ちょうどよいということ

僕的には歴史系の新書はこの「ちょうどよさ」が大事だと思っている。あまりわかりやすくしてしまうと、「ん?ちょっとこれとこれの間がわからない。」みたいなことになりがちだし、詳しすぎても「これだと全体の流れがわからない。。」ということになる。

本シリーズは各王朝毎に巻を分けながら、西暦987年に西フランク王国カペー朝が興った時代から1848年の二月革命までの約860年を描いている。日本で言えば藤原道長が朝廷で権力を奮う時代から、ペリー来航の直前くらいまでを新書3巻で書いているわけだから、駆け足であることは事実だが、フランスという国が形成される過程の概略を掴む入門書としては非常によくできていると思う。

実質フランス王と言っても、実質各地域に所在する豪族の一人にすぎなかったカペー朝、まさに現代で「フランス」と捉えられている地域の統一をほぼ果たした。ヴァロア朝はまだキリストの精神が支配するヨーロッパで宗教戦争に悩まされながらも、広大な領土の制度拡充/集権化に取り組んでいった。ブルボン朝は今までの騎士道精神から優美なベルサイユ式を推し進めることで、軍事的な支配だけではない文化大国として「フランス 」という国の精神的な支柱を組み上げていった。そんな姿を著者は最終巻の終わりで以下のように例えている。

犬に例えるなら、カペー朝の王たちはたまに番犬の役をするくらいの家犬だ。ヴァロア朝の王たちは、いつも走りまわされている猟犬である。ブルボン朝の王たちは、毛艶、骨格、肉付きと完璧に整えて、あとは優雅に歩いていればよいだけのショードッグ、そのために最高の栄養と最高の休息と、まさに「憂いひとつない」環境を与えられた、血統書付の生ける宝石なのである。

本シリーズは「王朝史」というだけあって、主にフランス内あるいはヨーロッパ内での事変や制度改革を中心に述べられており、植民地政策等の対外施策に触れらている点は少ない。加えてヨーロッパの中世~近代を捉えるに当たっては、1国だけを見ていても因果関係を説明しきれない部分がある。ただ、この辺りを含めて新書3冊でカバーするのは無理だろし、そこも含めてシリーズ化するとそれはもう膨大な情報量になり、とても入門者には耐えられるものではない。本書を読んで「更に詳しく知りたい!」と思う部分は読者毎に異なるだろうし、その好奇心に従って新たな本へ手を伸ばすのは読書の最上の喜びだろう。(僕は次はイギリスの物語へと手を伸ばすつもりだ。本書を読むとフランス/イギリスの深い関係がよくわかる)

国という概念

多くの人が持つ日本の歴史観(僕も含めて)は、「少なくとも本州~九州くらいまでは1000年でも2000年だろうと、どこまで時代をさかのぼっても日本は日本でしょ、」という感覚だと思うが、大陸の歴史は「ここは昔○○公国で、その後××になって、最終的にはフランスになったのはこの100年~200年も話です」みたいな地域が山ほどある。本書を読むとその過程がよくわかるし、EU問題やアイルランドなどでおこる独立運動の見え方も何となく変わってくる気がする。

海外の人と話すと自国の歴史について日本人よりよく知っている印象を受けることはないだろうか?(現代人がどこまでその感覚が残っているのかわからないが、)それは日本人と違って「この国が今の形であるのは(政治形態にしても領土にしても)自然なことではなく、いつ変わってもおかしくない」ということが、何となく国民通念として共有されているからではないだろうか。

ちなみにシリーズ化されているが、もし読者の中に「この時代だけ知りたい!」という方があれば、別にどれか1巻だけ読むのでも全く問題ないと思う。しばらく海外旅行には行けなさそうだが、夜寝る前だけでも華やかなフランスのイメージを味わい深く変えてくれる本書を是非手に取ってみてはいかがだろう。