ヨムタカの読書録

出会った本の感想録と歓びの共有を目指すブログ

<宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃/加藤 文元>~数学者が向き合う世界を覗く

2020年4月、数学上の超難問『ABC予想』がついに解決されたされたというニュースを新聞紙面やニュース等で目にした方も多くいるだろう。本書の初版発行は2019年だが、このニュースがきっかけとなり多くのサイトで注目を浴び、多くの人の目に触れることになった。僕もそんな中の一人だが、本書を通してIUT理論自体の意義もさることながら、数学者が日々どのような活動をしているのか、論文とはどのように発表されているのか、数学とはなんなのかといった部分にも多くのページが割かれており、数学者が向き合っている世界をすこしばかり覗くことができる興味深い読書体験となった。『宇宙と宇宙をつなぐ数学~IUT理論の衝撃』(加藤文元 著/角川書店

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論理的且つ直感的に

本書は専門家でもが理解できないような超ハイレベルな数学理論を、何とか一般人にできる限り説明しようというある意味無謀な試みが行われている。以下は僕が高校生時代に感じた「数学がわからない、そもそもなにがわからないかわからない」という現象を非常にクリアに説明してくれていると感じた。

中学や高校でいままで知らなかった定理を学んだりするとき、我々はその証明や説明を一行一行読んで論理的に理解するという側面もある一方で、それがとても自然で、いろいろなことと整合していて、その正しさが「腑に落ちる」という意味での直感的な理解も重要でした。つまり、論理的に詳細な理解と、直感的で全体的な理解の両面が、数学における「正しさ」の認識を支えているわけです。数学がわからない、苦手だというのは、この両面のうち、少なくともどちらか一方が欠けているということなのだ、とも言えるのではないでしょうか。

 もし、高校時代に自分の「わからない」が著者の言う通り①論理的な理解②直感的な理解(=腑に落ちる)のどちらに当てはまるのか考えていれば、もう少し数学の点数は上がったかもしれない。また、本書はIUT理論の②の部分を重視して、数式を使わないレベルで、内容や意義を僕らに伝えてくれている。もちろん、理解できる範囲は極めて全体の一部なのであろうが、これがいかに数学界に衝撃を与えたか、業界内での反応はどうなのかなど、多面的な要素が記載されている。

とはいえ①の論理的な理解がおざなりにされているわけではなく、特に7章では「群論」と呼ばれるジャンルの基礎が数式とともに、非常にわかりやすく記載されている。そうした意味では知的好奇心へも十分に応えてくれる内容と言えるだろう。

多くの謎に出会う

本書の約半分は理論の前提となる学会の慣習や過去の数学者の歴史の紹介に費やされている。その中にはまだ未解決の数学的問題や長い年月をかけて解決された問題が多く掲載されている。著者は巷で話題となっているABC予想の解明というのはICU理論のごく一部で結果であり、本質は別のところにあると再三書いているが、やはり誰にも解けなかった謎を、数々の努力で解明していくというのは、計算式の世界だけではなく人間的なドラマがあるのも事実だ。本来の目的とは違うのかもしれないが、記載されている数学的な謎を道しるべにより深く数学を学んでみたい、ほかの書物も読んでみたい、そんな気持ちにさせるのも本書の大きな魅力だろう。