ヨムタカの読書録

出会った本の感想録と歓びの共有を目指すブログ

<高慢と偏見>~エリザベス嬢によるスカッとストーリー

過去から何度も映像化/舞台化され、イギリス文学の中でも指折りの知名度を誇るであろう本作は、その構成といい主役エリザべスの立ち回りといい、多くの人に愛されてきたことがうなずける気持ちのよい読後感を僕らにもたらしてくれる。登場人物は田舎町の数家族だけというこの設定で、ここまでスカッとしたストーリーが展開できることに驚きを感じると共に、名作たる所以ではないだろうか。『高慢と偏見』(ジェインオースティン 著/中野康司 訳/ちくま文庫)

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世界中で人気なエリザベスの魅力

最初見たときは、邦題がやや硬いのでなんとも高尚なことが書かれているように感じられるが、ストーリー構成は極めてシンプルであり、非常に読み易い。本書が当初『第一印象』という題名で執筆されていることが、この作品の内容をよく表している。主な登場人物も5人姉妹の家族と隣人だけとかなり限られている上に、キャラクターもはっきりしているので、ストレスなく話に入っていける。個人的には皮肉屋のベネット氏(主役エリザベスの父)がお気に入りだが、本書ではやはり主役エリザベスの存在感が圧倒的に強い。

以下はエリザベスの親友シャーロットがコリンズ(エリザベスの従兄弟)と婚約した後のエリザベスと姉ジェインの会話である。

ねえ、お姉さま、コリンズさんはうぬぼれ屋で、尊大で、心が狭くて、そのうえひどい馬鹿よ。それはお姉さまにもわかってるはず。あんな人と結婚する女性は頭がどうかしてる。お姉さまもそう思ってるはずよ。シャーロット・ルーカスだからといって、弁護なんてしちゃだめ。シャーロットのために、節操や誠実さの意味を変えてはいけないわ。利己主義を思慮分別と思ったり、危険にたいする鈍感さを、幸福の保証だと思ったりしてはいけないわ

最初はただ、口が悪くて気の強い女性のようにも感じられるが、特に最後の文章などは、個人的にハッとさせられる部分でもあり、ただ自分が気に食わないというだけでなく、理論的な批判をしっかりと口にだせることが、彼女の最大の魅力だろう。

18世紀~19世紀初頭の女性の結婚観

18~19世紀初頭のイギリスについては、『マンスフィールド・パーク』の記事で少し触れたのが、本書を読むにあたって、当時の女性の結婚事情は更に参考になるかもしれない。以下記事でも触れた通り、当時の女性は結婚しない限りは生涯親/兄弟の援助を基に生きていかなければいけない境遇だった。

 

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 その中で、非常に興味深いのは「訳者あとがき」にて紹介されている著者オースティン、あるいは18世紀の普遍的な人生観である。

オースティンの人生観は十八世紀的な「道徳的かつ現実主義的人生観」だと、デイヴィット・セシルという言っている。簡単に言うと「お金のために結婚するのはよくないが、お金がないのに結婚するのは愚かなことだ」と考える人生観である。

もはや別に18世紀と断ることなく、現代でも十分に通用する考え方だと思うが、お金がない人と結婚するというのは、コンビニやら安い定食屋が普及している現在よりもシビアにライフスタイルに直結する問題であったのは間違いない。ここに身分という考え方も入ってくるわけだから、各家庭における娘の結婚が、いかに一大事であったかがうかがえよう。

結婚という一大事件

本書の話題はつまるところ、結婚である。お金がある程度保証されるなら、たとえ相手が馬鹿でもやむなしと考える女性もいれば、若さと一時の情熱に踊らされ駆け落ちするカップルや相手が尊敬できる人物かをしっかりと見定める人々もいる。時代は違えど、なんら変わることのない、結婚という人生の一大事件と向き合う人々をエリザベスのはっきりした物言いで痛快に描いてくれる名作である。

ちなみに読了後、キーラナイトレイ主演の映画も見たのだが、演技もさることながら、舞踏会や当時の服装/部屋のイメージがつかめるので、かなり楽しむことができた(どこまで忠実に再現しているのかは知らないが、、)。ストーリーは映画だとかなり駆け足で進むので、本を読んでから見て頂いた方がストレスなく見れるかと思う。

 

高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)

高慢と偏見 上 (ちくま文庫 お 42-1)