ヨムタカの読書録

出会った本の感想録と歓びの共有を目指すブログ

2020-06-01から1ヶ月間の記事一覧

コンビニに生まれかわってしまっても~淡々とした描写から地続きで映される想い

日常的に行う動作、目につくもの、ふと思う事、それはたぶん多くの人が共通していることだろう。本書ではそんな日常的な感覚/知覚を切り出し、詠っている歌が多い。切り出し方は奇抜ではなく、あくまで淡々とした描写に終始するが、それが逆に作者の想い/絶…

<リチャード三世>~リアリスト男の激動な生き様

これほどに癖のある人物を主役に据えた戯曲も、現代の目線からするとかなり珍しく映る。見た目は醜悪だが冷徹で現実主義な男が、あらゆる人を口説き落とし、多くの人を殺害して、自らの野望を実現させ、最後には自ら運命に飲み込まれて命を落とす。なにか大…

<ジーキル博士とハイド氏>~想像力の向こう側

日本でも度々ミュージカルが上演され、子供向けの本も多く出版されているので、日本でも相当に知名度が高いだろう本作は、実は文庫本にして約130ページ程度と短い話だ。本書の最大の魅力はハイド氏が纏う雰囲気であり、ジーキル博士の苦悩の姿であろう。悪を…

<高慢と偏見>~エリザベス嬢によるスカッとストーリー

過去から何度も映像化/舞台化され、イギリス文学の中でも指折りの知名度を誇るであろう本作は、その構成といい主役エリザべスの立ち回りといい、多くの人に愛されてきたことがうなずける気持ちのよい読後感を僕らにもたらしてくれる。登場人物は田舎町の数家…

<夜にあやまってくれ>~裂け目から覗く生々しさ

非常にスッと読みやすい歌が並んでいる。ただ、声に出して詠むというより、一人静かに黙々と心の中で詠むほうが向いている歌が多いような気がする。パッと見たときは思わず声に出してみたいような気持ちにさせられるのだが、よくよく見ると少し恐ろしい。短…

<宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃/加藤 文元>~数学者が向き合う世界を覗く

2020年4月、数学上の超難問『ABC予想』がついに解決されたされたというニュースを新聞紙面やニュース等で目にした方も多くいるだろう。本書の初版発行は2019年だが、このニュースがきっかけとなり多くのサイトで注目を浴び、多くの人の目に触れることにな…

<ボヴァリー夫人>~人妻の芸術的な破滅への道のり

多くのフランス文学作品の中でも、知名度で言えばかなり上位に名を連ねるであろうこの作品は、後続の文学者/芸術家達への影響も強く、まさに世界で愛されている小説と言えるだろう。人妻エンマの感情が幸福と不幸を間を物凄い振れ幅で揺れ動く様が、極めて緻…

<オスマン帝国 繁栄と滅亡の600年史>~ややマニアックな大帝国通史

オスマン帝国というキャッチーな語感の帝国は、高校で世界史を学んだ人なら誰しもが聞き覚えがあるだろう。然し他のムスリム系の王朝同様、あまりこの国自体がフォーカスされることはなく、とある戦争の一同盟国として掲載されているだけであったり、しいて…